つながらない線路

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風景
近鉄電車
  
松阪市に入り、近鉄の駅前を通過した。

「伊勢中川駅ですね。ここで乗り換えや電車待ちをしていたから、土地感があった?」

「うん。名古屋出張のとき、旅費を浮かすため、急行を使っていたようだ」
   
喫茶店のマスターから聞いた話である。
 
「急行だと、伊勢中川駅で長い時間、電車待ちをすることになる。この辺りの地理には詳しくなるよ」
  
大阪・名古屋間を直通する「急行」は無い。伊勢中川駅で乗り換えとなる。
   
  
駅から南へ10分。田畑が広がっている平野の中に小さな鎮守の森があった。森の中には小さな神社が祀られていた。

(ここしかない)
   
人気がなく、誰にも気付かれずに絵を隠せる。裏に回り、小さな社の床下を覗いた。

梱包されたものが隠されていた。農作業をしていた地元の老婦人に頼み込み、社の中へ入れてもらった。
   
床下から取り出し、ジュラルミンのケースを開けた。探していたマッホの絵がそこにあった。
  
絵を貨物室に仕舞い、運転席に着いた。エンジンをかけると共に、カーラジオのスイッチを入れた。
  
ニュースが流れた。

『今日、東海近畿電力の田ノ上会長が辞任しました』
     
『田ノ上会長は…。失礼、辞任しましたので、元会長ですね。元会長は長年に渡り、美術品を会社の備品として購入していました』
     
『多くは市場価格より格段に高い金額であったようです。内部告発で発覚し、調査の結果、美術品の不明朗な購入による損害額は30億円を超えると見られています』

『責任を取り、先程、会長を辞任しました。東海近畿電力は元会長を検察に告発する予定です』

『田中さん。田ノ上会長と言えば、社内では天皇と言われていた人物ですね?』
      
『はい。名古屋財界でもドンと言われていた人物です』

『これから、いろいろと大変ですね』
     
『はい、そのとおりだと思います。それから、中京総合ツーリストの植芝隆之会長も辞任することを発表しました。こちらは後進に道をゆずりたい、との意向です』

『財界の世話人と呼ばれている方ですね?』
   
『はい。植芝会長は財界の要職からも身を引く模様です。ただ、先月発足しました名古屋・大阪経済圏をつくる会の活動は続けていくそうです』
      
『名古屋財界も大変ですね?』
   
『はい。財界幹部も頭を抱えています。ニュースは以上です』

『ニュースは田中幸生アナウンサーでした。続いて、山本麻那アナウンサーの天気予報です。では、麻那さん、お願いします』

『はい。では天気予報をお伝えします。東海地方は今夜から下り坂に入り…』
    
カーラジオのスイッチを切った。

(雲行きが怪しくなってきた。とりあえず、報酬は貰わなくては)
   
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