近付き、声を掛けた。そして、ジャケットの内ポケットから、殺害された田々和の写真を取り出した。
「この方をご存知ありませんか?」
「半月前に来られた方だな。雑誌社のカメラマンちゅとった。茶を10袋も買っていかれたから、よく覚えている。あんたもどうかね?わしの手揉みのお茶」
無人販売所の方を見た。
「最初は景気の話だった。それから茶畑を売ったという話に」
うしろを振り返り、茶畑を指さした。
「2ヵ月前、大阪の不動産屋が売ってくれと。農地は他の用途に転用できへんで、そう教えたが」
「ゼネコンが農業をすると答えた。ここで苗や種芋を育て、ビルの屋上に植える。地球温暖化対策ちゅんかいな」
「それで1ヵ月前、仮契約をした。こっちとしては相場の倍で買ってくれたんや。悪い話ではない。息子は東京でサラリーマン。農業はわしの代で終りや」
「まあ、そんな話を。その男は喜んで、茶を10袋買ってくれた。あ、どこの不動産屋か、聞かれたので」
ズボンのポケットから財布を取り出し、中から名刺『淀第一不動産株式会社 社長 中館誠』を抜き出した。住所は大阪市福島区玉川であった。
礼を言ったあと、無人販売所に置かれていた6袋のお茶を買った。
(仮説が的中していたようだ)
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