トン、トンという音が探偵事務所に響いた。時刻は午前9時、
スーツ姿の中年男が2人、軽く会釈して室内に入った。1人は後輩の畠山警部補、もう1人も刑事のようであったが、見覚えが無かった。
「お元気そうでなりよりです。こちら兵庫県警の伊吹警部です」
同行した人物を紹介した。せいかんな顔のガッシリした体格。やや中年太りぎみの丸顔の畠山警部補とは対称的であった。
ソファに腰かけるよう勧めた。
「今日伺いしましたのは、岩田さんが担当した事件について、お聞きしたいことが」
茶を一口飲んだあと、畠山警部補が切り出した。
「6年前、大阪府の局長が刺された事件を覚えておりますか?」
そういう事件があった。
「その事件で犯人の身代りとして、自首してきた男がいましたね?」
「確か、田々和という名前だった」
「はい。当時は暴力団に所属していましたが、その後、組を追放されたチンピラです」
6年前、大阪府の幹部職員が何者かにナイフで腹を刺された。刺された幹部職員の名は井戸口勝。役職は局長。急所をはずれていたため、大事に至らず、2週間程度の入院で済んだ。
翌日、ナイフを持って自首してきたのが田々和かつ也。取り調べを担当したのが岩田であった。
話の食い違いから、身代りに出頭してきたと判断。周辺を捜査し、組の幹部が本当の犯人であると突き止め、逮捕した。
組の幹部は依頼を受け、犯行を行なった。しかし、依頼者の名を吐くことはなかった。さらに刺された井戸口局長も非協力的で、捜査はそこで終った。
井戸口局長には黒い噂が多数、刺されても仕方のないような人物であった。
暴力団の幹部逮捕後、『ヘタを打った』田々和は組を追われた。
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