新大阪から地下鉄を乗り継ぎ、岩田は大阪府庁へ向かった。
井戸口勝と会う前に、先約があった。
先約は、大阪府庁の市谷和生(いちたにかずお)。
6年前、井戸口勝が刺された事件。
捜査のため、井戸口の同僚や部下に、聞き取りを行った。
しかし、府庁の実力者である井戸口を恐れて、非協力的であった。唯一、まともに応えてくれたのが、市谷和生である。
当時、井戸口の下で課長をしていた。1匹狼だが、仕事はできる人物である。
昨晩、彼に電話を掛けた。
和田かつ也が殺害されたこと、絵を捜していること、井戸口理事長が係わっていること、市谷和生に概要を話した。
そして、今日の昼休み、会う約束をした。
岩田が、大阪府庁に到着したのは昼前であった。
府庁は、大阪城の西側、上町台地(うえまちだいち)と呼ばれる高台に建っている。
住所は、大阪市中央区大手町。
府庁本館は、1926年完成の歴史的建造物。古く狭いが、味がある。
その歴史的建造物の中へ入った。
部長室のドアをノックした。
市谷和生は現在、部長になっていた。ただし、出世ラインから外れた閑職である。
「どうぞ」
室内から声が返ってきた。
ドアを開け、岩田が部屋に入った。
55歳だが、動きは機敏。立ち上がり、岩田を出迎えた。
顔には懐かしいという表情が表れた。
狭いが、応接セットのある個室で向かいあって座った。
「6年ぶりですね。あのときは、協力いただき感謝しています」
社交辞礼でなく、岩田の本当の気持ちであった。
「電話をいただき、びっくりしました。理事長のことで、と言われた時は、未だに捜査をしているのかと」
市谷和生も、うれしそうに応じた。
「あはは…」
岩田は笑うしかなかった。
6年前の事件は、実行犯を逮捕したが、依頼した人物を割り出せなかった。
井戸口が狙われた理由も、わからないまま終わった。
「井戸口理事長ですが、あいかわらず、裏の知事です。議員を取り込むのが得意ですから」
市谷和生が挨拶がわりに、現状を教えてくれた。
「あいかわらず、ですか…」
岩田が溜息まじりに呟いた。
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